先月のブログでは、矯正治療後に行う保定の重要性について、お話をさせていただきました。
保定に関連し、歯の矯正でもっとも気をつけたい要素の一つに、歯の「後戻り」があります。
せっかく、矯正で歯並びを整えても、後戻りによって元の位置に歯が戻ってしまうケースも少なくありません。
今回は、歯科矯正で特に注意が必要な「後戻り」のお話です。
目次
■矯正で歯が動き、歯並びが整っていくメカニズム
まずは、矯正ではなぜ、歯が動き、歯並びが整っていくのかを知っておくと、後戻りが起きる仕組みを理解しやすくなります。
◎歯槽骨の代謝を利用することで、少しずつ歯が動いて歯並びが整っていきます
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歯科矯正では、ブラケット装置やマウスピースなどの矯正装置で力をかけ、歯を動かします
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力をかけた方向の歯根膜から骨を溶かす破骨細胞が分泌され、歯を支えている歯槽骨が溶かされて(骨が吸収して)スペースができます
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歯槽骨が溶けてできたスペース分、歯が動きます
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力をかけた方向と反対側の歯根膜からは骨を作る造骨細胞が分泌され、歯が動いて空いたスペース分を埋める形で、骨が作られます
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上記が、歯科矯正で歯並びが整っていくメカニズムです。歯科矯正のメカニズムを理解していただいた上で、次の項では、矯正中や矯正後に起きる後戻りについて、ご説明します。
■後戻りとは
◎元の位置に歯並びが戻っていく生体現象です
歯科矯正における後戻りとは、元々の悪い歯並びの位置に歯が戻っていく生体現象です。
矯正中・矯正後、いずれにおいても、生きているあいだは、常に、後戻りが発生する可能性があります。
◎人の脳や身体は、元々の悪い歯並びをいつまでも覚えている、と考えられています
矯正中・矯正後に後戻りが起きるメカニズムは、はっきりとは解明されていません。はっきりとは解明されていませんが、関係していると見られているのが、脳や身体の「元々の悪い歯並びの記憶」です。
人の脳や身体は、元々の悪い歯並びをいつまでも覚えていると考えられています。悪かったときの歯並びの記憶により、矯正で位置が変わった歯に対して「あれ?いつもの歯並びと違う…戻さなきゃ!」と脳が指令を出し、後戻りが起きるのではないか、と推測されています。
脳の記憶に加え、歯と歯槽骨をつなぐ歯根膜の組織も、後戻りを起こす要素と見られています。歯根膜の組織が元々の悪い歯並びを覚えており、歯を元の位置に戻そうとして歯根膜の組織が歯を引っ張ることで、後戻りが起きる…というメカニズムが、現在、考えられている後戻りの推測説の一つです。
■後戻りが起きる原因
原因①マウスピース矯正中、マウスピースを外す時間が長すぎる(1日20時間以上、マウスピースを装着していない)
ブラケット矯正、マウスピース矯正と2種類ある歯科矯正のうち、矯正中の後戻りが起きやすいのは、取り外し式であるマウスピース矯正です。
マウスピース矯正中、マウスピースを外す時間が長すぎると(1日4時間以上、外している)、歯を押さえつける時間が短くなり、矯正中の後戻りが起きやすくなります。
≪対策方法≫
インビザラインでは、矯正中、1日20時間以上、マウスピースを装着しましょう。
{固定式のブラケット矯正は、矯正中の後戻りが比較的、起きにくいです}
ブラケット矯正では、固定式のブラケット&ワイヤー装置を用い、歯を固定します。固定式のため、マウスピース矯正と比べて、ブラケット矯正は矯正中の後戻りが比較的、起きにくいです。
原因②保定期間中、定められた時間、保定装置をつけていない
矯正治療後に行う保定において、保定期間中、定められた時間、保定装置(リテーナー)をつけていないと、後戻りが起きやすくなります。
≪対策方法≫
保定期間中は、定められた時間、保定装置をつけましょう。
原因③保定終了後、まったく、保定装置をつけていない
保定終了後の保定装置の装着は、義務付けられていません。義務付けられていませんが、脳や身体は一生、元々の悪い歯並びを覚えているため、生きている限り、常に後戻りが起きる可能性があります。
保定終了後、まったく、保定装置をつけていないと、後戻りが起きやすいです。まったく保定装置をつけていないと、最悪の場合、ほぼ元の位置に歯並びが戻ってしまうケースも。
≪対策方法≫
保定終了後の保定装置の装着は、1週間に数時間程度でもかまいません。保定終了後も、継続して、定期的に保定装置をつけることで、歯の後戻りを防ぎやすくなります。
【定められたルールを守り、保定を継続して、後戻りを防ぎましょう】
矯正中・矯正後に起こり得る後戻りのほとんどは、矯正におけるルール(マウスピースの装着時間など)を守り、保定を継続することで防げます。
定められたルールを守り、保定を継続して、後戻りを防ぎましょう。