40歳頃を境目に中高年以上になると、食事時にむせる、食べ物が飲み込みづらいなどの嚥下障害(えんげしょうがい)が起きやすくなります。
嚥下障害はのど周りの「飲む筋肉」のほか、口や顎周りの「噛む筋肉」も密接に関係しています。加齢による嚥下障害を予防するには、まずは食べ物を咀嚼するために欠かせない噛む力(咬合力)を保ち、併せて、飲む機能(嚥下機能)を正常な状態に近づけることが大切です。
今回は「加齢による嚥下障害の予防の仕方」についてご説明いたします。
目次
■嚥下障害の原因
◎口腔機能低下症
飲み込む力が衰えたり(嚥下障害)、噛む力が弱まるなど、口腔機能が低下する疾患を「口腔機能低下症」と呼びます。
◎加齢により全身の筋肉が衰えることで口腔機能低下症をひき起こすケースが多い
口腔機能低下症をひき起こす主な原因は加齢による老化です。老化にともなって全身の筋肉量が減ると共に飲む筋肉や噛む筋肉が衰え、口腔機能低下症をひき起こすケースが多いです。
◎噛む力を低下させる要因
飲む機能が衰えている方は噛む力も低下しているケースが多いです。噛む力を低下させる要因には以下のようなものがあります。
・むし歯や歯周病、事故などが原因で歯を失ったり歯並びがガタガタになり、食べ物をまともに噛めない
・歯並びや噛み合わせが乱れており、食べ物をしっかり噛めない
・合わないブリッジや入れ歯が原因で食べ物をしっかり噛めない
◎全身性の病気や薬の副作用で口腔機能低下症を発症することも
骨粗しょう症などの全身性の病気や薬の副作用が原因で噛む力や飲む機能が低下し、口腔機能低下症を発症することがあります。
■口腔機能低下症をひき起こす悪循環とは?
◎「噛む力が低下する」「やわらかい物ばかり食べる」「飲む機能が衰える」の悪循環
噛む力が低下することで以下の悪循環が生じ、口腔機能低下症を発症しやすくなります。悪循環により、なかなか口腔機能低下症が治らないケースも多いです。
①むし歯や歯周病で歯を失ったり、噛み合わせの乱れなどが原因で噛む力が低下する
↓
②噛む力が低下することで炭水化物を中心にやわらかい物ばかり食べるようになる
(やわらかいパンや麺類、プリンなどのデザート、甘いジュースやお酒などで栄養を補いがちになる)
↓
③やわらかい物が中心の食生活になり噛む筋肉をあまり使わなくなることに加え、タンパク質不足により筋肉量が減ってさらに噛む力が低下する
↓
④噛む力が低下することで口や顎と連動しているのど周りの飲む筋肉(飲む機能)が衰え、嚥下障害が起きやすくなる
↓
⑤飲む機能が衰えることで硬い物をしっかり咀嚼して飲み込むのが難しくなり、炭水化物を中心にやわらかい物ばかり食べるようになって噛む力が低下する…(②に戻ってしまう)
上記のように、噛む力の低下が飲む機能の衰えにつながり、飲む機能の衰えによってさらに噛む力が低下する…という悪循環が生じてしまうことが少なくありません。
■口腔機能低下症を予防するには
◎まずは噛む力を保つことが大切
口腔機能低下症を予防するのに大切なのは、まずは噛む力を保つこと。
噛む力を保つためには、ご自身の天然の歯を正常に維持するのがベストです。毎日の歯みがきと歯間清掃によるセルフケアをしっかり行い、併せて、歯科医院で定期的にメンテナンス(検診と歯のクリーニング)を受けることで天然の歯を正常に維持しやすくなります。
歯並びの乱れによって噛み合わせが乱れていたり、むし歯や歯周病、不慮の事故などが原因で歯がガタガタになった・歯を失った場合は症状に合わせて以下の歯科治療を受けることで噛む力の回復につながります。
≪噛む力を回復するための治療≫
・矯正治療
・咬合調整
・むし歯治療
・歯周病治療
・インプラント・ブリッジ・入れ歯による補綴治療
◎お口周りの筋肉トレーニングで噛む力を正常化し、飲む機能を強化する
天然歯の維持や噛む力を回復する歯科治療によって噛む力を保つと共に、「正しく噛む」「正しく飲む」を身につけることで噛む力の正常化と飲む機能の強化につながります。
正しく噛む、正しく飲むを身につける方法には歯科医院で指導する口腔筋機能療法(MFT:お口周りの筋肉トレーニング)のほか、手軽に始めやすいあいうべ体操などがあります。
≪噛む力を正常化し、飲む機能を強化するための方法≫
・口腔筋機能療法(MFT)
・あいうべ体操
◎全身性の疾患や薬の副作用が原因の場合は症状に合わせた処置や治療が必要になることも
骨粗しょう症などの全身性の疾患や薬の副作用によって口腔機能低下症が起きている場合は、内科や放射線外科など、症状に合わせて各診療科目での処置や治療が必要になることがあります。
【しっかり噛めない・飲みにくいなどのお悩みがある方は当院までご相談ください】
噛む力の低下や加齢による飲みにくさなど、口腔機能低下症は「年だから仕方ない」と見過ごされがちです。
しかし、噛みにくい・飲みにくいことを“年齢のせい”とあきらめてしまうのは良くありません。口腔機能低下症を放置すると、噛む力の低下により炭水化物中心の食生活になることで栄養状態が悪化したり、誤嚥性肺炎など、飲む機能の衰えによって命に関わる疾患をひき起こすリスクが大きくなります。
口腔機能低下症を予防するには、毎日のセルフケアと定期検診で天然の歯の健康を維持すると共に、歯の状態に合わせて歯科医院で適切な治療を受けることが重要です。
しっかり噛めない・飲みにくいなどの症状がある方は当院までご相談ください。カウンセリングでは歯科医師が患者様の現在のお悩みをお伺いした上でお口の状態を確認し、お1人お1人に合った治療方法をご提案させていただきます。